東京高等裁判所 平成10年(ネ)3381号 判決 1999年9月29日
控訴人(原審原告)
株式会社佐竹製作所
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
池田昭
被控訴人(原審被告)
株式会社千代田製作所
右代表者代表取締役
【B】
被控訴人(原審被告)
株式会社チヨダエンジニアリング
右代表者代表取締役
【B】
被控訴人(原審被告)
司牡丹酒造株式会社
右代表者代表取締役
【C】
右三名訴訟代理人弁護士
秋吉稔弘
同補佐人弁理士
【D】
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人株式会社千代田製作所は、原判決別紙物件目録記載の醸造用精米機HSー二五ⅡCNC型(新型)を製造し、譲渡してはならない。
3 被控訴人株式会社チヨダエンジニアリングは、原判決別紙物件目録記載の醸造用精米機HSー二五ⅡCNC型(新型)を製造し、又は譲渡のために展示してはならない。
4 被控訴人司牡丹酒造株式会社は、原判決別紙物件目録記載の醸造用精米機HSー二五ⅡCNC型(新型)につき、左記のような使用をしてはならない。
記
CRTに表示される精米パターンの「白米」(最終仕上歩留)欄に「七〇パーセントないし三五パーセント」の範囲の中で適宜の数値を入力し、縦に「1」ないし「10」までの一〇段階に区分された搗精段階については、二段階以上で一〇段階までの中から任意の段階数を決定して、この決定された各搗精段階に対応する「歩合」欄に九〇パーセントないし三五パーセントの範囲内の数値を縦に漸次減少的に入力し、さらに入力したこの搗精段階毎に任意の「回転」数及び「電流」値をそれぞれ縦に入力した後、自動運転モード下において酒造原料米の精白を行う。
5 被控訴人株式会社千代田製作所は、在庫中の原判決別紙物件目録記載の醸造用精米機HSー二五ⅡCNC型(新型)及びその半製品(原判決別紙物件目録記載の構造を具備しているが、精米機として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
6 被控訴人株式会社千代田製作所及び同株式会社チヨダエンジニアリングは、控訴人に対し、それぞれ金一二〇〇万円及びこれに対する平成六年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。
7 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 当事者双方の主張は、後記二及び三のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 控訴人の主張
1 構成要件D該当性について
原判決は、構成要件Dの「任意の玄米の重量Woを設定する重量設定手段」について、ユーザーが、その意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段であると認定したが、それは誤りである。
すなわち、重量設定手段は歩留達成度判定手段に連絡され(構成要件E)、「任意の玄米の重量Wo」が歩留達成度判定手段に入力されるものであるが、実施例についていえば、ユーザーが玄米タンクに張込みを希望する玄米の量を設定して、スイッチを投入すれば、モーター、コンベア、昇降機によって、玄米が徐々に玄米タンクに張り込まれ、その量をロードセルが絶えず測定して、その測定値とユーザーの設定値とが一致すれば張込み工程は終了するのであるから、この段階、つまり搗精作業開始直前の時点においては、ユーザーの設定値とロードセルの測定値(現実に玄米タンクに張り込まれた玄米の量)は一致している。したがって、その設定値と測定値のいずれを歩留達成度判定手段に入力するかは、当業者が適宜選択すればよいことであり、原判決の認定するようにユーザーの設定値が入力されると限定する技術的必然性はない。また、本件特許の明細書にも、親出願に係る当初明細書にも、歩留達成度判定手段に入力されるのが右設定値に限定される旨の記載は存在しない。
そうすると、歩留達成度判定手段に入力される「任意の玄米の重量WO」が右設定値に限定されるものではなく、したがって、原判決が、構成要件Dの「任意の玄米の重量Woを設定する重量設定手段」を、ユーザーが、その意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段であると限定して認定したことも誤りである。
2 構成要件E及びF該当性について
原判決は、構成要件Eの「歩留達成度判定手段」が、目標値である設定歩留とその時点における歩留とを比較して目標値にどれだけ近付いたかを判定するものであり、それによって判定された達成度合によって、精白部の負荷(甲発明構成要件F)や精白部の回転数(乙発明構成要件F)が制御されるものと認定し、他方、被控訴人製品においては、算出された精米歩合に応じて、精白部の負荷や回転数が予めコンピュータに記憶された精米パターンに設定されたように制御されるが、その精米歩合は各時点における精米過程中の米粒の重量と、最初に検出されコンピュータに記憶された玄米の重量によって求められる絶対的歩留であると認定して、被控訴人製品が構成要件E及びFを充足しないと認定したが、それは誤りである。
すなわち、原判決別紙物件目録第7図に示されるように、被控訴人製品の歩合に応じた各段階(少なくとも第一~第五段階)における回転数と電流値に関する各設定値は、最初に設定歩留六〇%を設定して、これとの関係でユーザーの独自のノウハウに基づき個別に決定されるもので、設定歩留との対応関係を抜きにしては、右各段階分け及び回転数と電流値の設定をすることが不可能な性質のものである。そして、被控訴人製品においては、まず現在の歩留を算出し、これが現在の段階の範囲内における歩留値であるか次の段階に進むべき歩留値であるかを比較しているのであるから、その比較の時点において設定歩留を絶えず考慮に入れているのであり、そうだとすると、それは、本件特許発明における「歩留達成度判定手段」と同様、目標値である設定歩留とその時点における歩留とを比較して目標値にどれだけ近付いたかを実質的に判定しているものといえる。
したがって、被控訴人製品は構成要件E及びFを充足するものである。
三 被控訴人らの主張
控訴人の主張は争う。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、控訴人の当審における主張に対し後記二のとおり判断するほかは、原判決「第三 当裁判所の判断」欄と同じであるから、これを引用する。
二 控訴人の当審における主張について
1 構成要件D該当性について
控訴人の主張は、本件特許発明において、搗精作業開始直前の時点においては、現実に張り込まれた玄米の重量(測定値)はユーザーの設定値と一致しているので、歩留達成度判定手段に入力するのは設定値と測定値のいずれでもよく、ユーザーの設定値が入力されると限定する技術的必然性はないから、翻って、歩留達成度判定手段に連絡される重量設定手段を、ユーザーがその意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段であると限定して認定することが誤りであるというものであると解される。
しかしながら、構成要件Dの文言自体、本件特許の明細書の記載、本件特許の出願経過に照らして、「任意の玄米の重量Woを設定する重量設定手段」が、ユーザーがその意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段であると解されることは前示(原判決四三頁七行から四九頁八行)のとおりであり、仮に、控訴人主張のとおり、搗精作業開始直前の時点においては、現実に張り込まれた玄米の重量(測定値)はユーザーの設定値と一致しているとしても、右認定を左右するには足りず、控訴人の右主張は失当といわざるを得ない。
2 構成要件E、F該当性について
控訴人の主張は、被控訴人製品が、現在の歩留を算出し、これが精白部の回転数や電流値を現在の段階に止めるべき歩留値であるか、次の段階に進めるべき歩留値であるかを比較判定するものであるところ、その段階分けや各段階毎の回転数、電流値は、最初に設定した歩留との関係で、各段階毎の歩留に応じ、ユーザー独自のノウハウに基づき個別に決定されるものであるから、その比較の時点において設定歩留を絶えず考慮に入れているのであり、そうだとすると、それは、本件特許発明において「歩留達成度判定手段」が、目標値である設定歩留とその時点における歩留とを比較して目標値にどれだけ近付いたかを判定するものであるのと実質的に同一であるというものであると解される。
しかしながら、本件特許発明の「歩留達成度判定手段」が、設定歩留と各時点における歩留とを判定の要素とし、それを比較して目標値にどれだけ近付いたか(達成度合)を判定するものであるのに対し、被控訴人製品は、単に各時点における歩留(絶対的歩留)を判定するにすぎないものであり、さらに、本件特許発明においては、「歩留達成度判定手段」の判定した達成度合によって精白部の負荷や回転数を制御する(構成要件F)のに対し、被控訴人製品においては、その判定した絶対的歩留に応じ、ユーザーが予め設定し、コンピュータに記憶させてある段階分けした精白部の回転数、電流値等(精米パターン)に基づいて、これらを制御するものであるから、本件特許発明の「歩留達成度判定手段」と被控訴人製品の歩留判定の手段とが、構成、作用として同一といえないことはもとより、前示(原判決五五頁三行から六行)のとおり、被控訴人製品においては、運転中に設定歩留を変更した場合にも、精米パターン(各段階毎の精白部の回転数、電流値等)が変化しないものと認められることに照らせば、効果においても異なっているものといわざるを得ない。
したがって、被控訴人製品は、実質的にも本件特許発明の「歩留達成度判定手段」を備えているものとはいえず、控訴人の右主張は失当といわざるを得ない。
三 よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)